AML(アンチ・マネー・ローンダリング:資金洗浄対策)として、KYC(顧客確認)の強化や取引モニタリングシステムの導入を進める金融機関が増えています。FATF(金融活動作業部会)による国際的な要請や金融庁による監督の強化を背景に、「まずは仕組みを整える」ことに力を注いでいる企業も多いでしょう。
しかし、その「仕組みを導入すること」自体がゴールになっていませんか。
マネー・ローンダリング対策の実効性を左右するのは、システムを導入したかどうかだけではありません。「そのシステムが実際のマネー・ローンダリングの手口を検知できるか」を検証できているかどうかが重要です。
どれほど高機能なシステムを導入しても、十分な検証が行われていなければ、検知漏れや誤検知がどの程度発生しているのかを正確に把握することはできません。
本記事では、マネー・ローンダリング対策において見落とされがちな「システムの検証」という論点と、品質保証(QA)の視点から実施できる具体的なテストについて解説します。

AML(アンチ・マネー・ローンダリング)システムとは
AMLシステムとは、マネー・ローンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与を防ぐために、金融機関が取引を監視・検知するためのシステムです。
顧客情報を確認するKYC、取引をリアルタイムまたはバッチで監視する取引モニタリング、疑わしい取引を検知するアラート機能、そして当局への報告までの一連の業務を支えています。
2027年4月1日には、犯罪による収益移転防止法(犯収法)の施行規則改正が予定されており、非対面の本人確認における画像送信方式などが原則廃止され、マイナンバーカードによる公的個人認証(JPKI)への一本化が求められます。
こうした制度変更が続くたびに、金融機関はシステムの見直し・改修を迫られ、AMLシステムへの投資需要はさらに高まっています。
AMLは「システム導入」だけでは不十分
AMLシステムは、導入して稼働させるだけでは、マネー・ローンダリング対策として十分とはいえません。
なぜなら、システムが「動いている」ことと、マネー・ローンダリング対策として「有効に機能している」ことは別だからです。
仕組みを導入すれば対策は前進しますが、疑わしい取引を適切に検知できているかどうかは、システムを稼働させただけでは判断できません。
画面上でアラートが出力されていれば、システム自体は正常に動作しているように見えます。しかし、その検知ルールが実際のマネー・ローンダリングの手口に対して有効なのか、必要な取引を漏れなく検知できているのかは、別途検証する必要があります。
金融庁も、マネー・ローンダリング対策に係るITシステムについて、導入時に自社のリスク管理に見合ったものとなっているかを検証するとともに、導入後も定期的に検証し、必要に応じて改善することを求めています(出典:金融庁「マネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに関するよくあるご質問(FAQ)」)。
つまり、AMLシステムは「導入したかどうか」ではなく、「継続的に検証し、有効に機能していることを確認できているか」が重要です。
これは、これからAMLシステムを導入する企業だけでなく、すでに運用している企業にも共通する論点です。

AMLシステムのテスト・検証不足によって起こる問題
AMLシステムのテストや検証が不十分なまま運用を続けると、さまざまな問題を見過ごすおそれがあります。
ここでは、特に注意したい「検知漏れ」「誤検知」「属人的な運用」の3つについて解説します。
これらは単純なシステム性能だけの問題ではなく、検知ロジックやデータ、運用プロセスを適切に検証・改善できていないことで顕在化しやすい問題です。
3-1. 検知漏れ
検知漏れは、AMLシステムにおける大きなリスクの一つです。
なぜなら、ルールベースの検知ロジックが、あらかじめ定義したパターンに基づいて動くため、想定していない新しい手口には対応できないからです。マネー・ローンダリングの手口は、資金の分割、第三者名義の利用、暗号資産を経由した送金など、複雑化・多様化しています。
一度設定したルールを見直さずに運用し続ければ、いつの間にか検知の網から外れる取引が生じる可能性があります。また、検知できていない取引はシステム上でアラートが発生しないため、社内の通常のモニタリングだけでは問題に気づきにくい点にも注意が必要です。
その結果、疑わしい取引を見逃し、当局対応やレピュテーションリスクにつながる可能性があります。
3-2. 誤検知
誤検知の多発も、AMLシステムの運用における大きな課題です。
発生する理由としては、検知漏れを防ぐために検知条件を広げることで、その分正常な取引まで拾ってしまう可能性が高まることにあります。検知漏れのリスクを避けるために、ルールを厳しめ(広め)に設定する現場は少なくありません。
実際、コンプライアンス担当者は、大量のアラートを一件ずつ目視で確認する作業に時間を取られます。確認すべきアラートの大半が実際には問題のない取引だった場合、担当者の負荷は増え続け、疲弊が蓄積します。
結果的に、本当に重要なアラートが埋もれてしまい、確認業務が膨れ上がるだけでなく、見落としのリスクも高まります。
3-3. 属人運用
属人的な運用は、担当者の異動や退職によって対応品質が変化するリスクをはらんでいます。
なぜなら、AML対応では疑わしい取引かどうかの最終判断を、コンプライアンス担当者の経験や勘に頼る場面が多いからです。判断基準が明文化・標準化されていない場合、それは特定の個人の頭の中にしかない知識になります。
実際、担当者が異動・退職すると、それまで蓄積されてきた判断基準やノウハウが引き継がれず、後任者は同じ精度で判断できません。
金融庁の検査でも、判断の根拠を客観的に説明できるかが問われますが、属人的な運用ではその説明が難しくなります。
その結果、担当者が代わった途端に、検知精度や対応品質にばらつきが生じてしまいます。
AMLシステム品質保証の3つの観点
AMLシステムの効果を最大限に発揮するためには、主に3つ観点で検証をすることが重要です。
前章で紹介した問題を解消するためにも有効的なテストを行っていきましょう。
4-1. 検知品質(シナリオテスト)
まず重要なのが検知品質の観点です。検知品質の検証で行うシナリオテストでは、資金の分割送金や名義の使い分け、短期間での多頻度取引など、実際に報告されているマネー・ローンダリングの手口を再現したテストケースを作り、システムに流し込んで検知結果を確認します。
こうすることで、想定していたルールが実際の手口パターンに対して機能するか(検知ロジックの網羅性)を検証することができ、本番運用に入る前に検知漏れの芽を摘むことが期待できます。
バルテスでは、CAMS資格を保有した、ソフトウェア品質保証の専門家が複数在籍しています。これにより、実際に報告されている手口の傾向を踏まえたテストシナリオの設計が可能です。
検知漏れによる行政指導やレピュテーションリスクを避けるためにも、シナリオテストは重要です。
4-2. データ品質(データ品質テスト)
データ品質の観点で行うデータ品質テストは、氏名や住所、取引履歴といったKYCデータの表記揺れ・欠損・更新漏れといった不備のパターンを洗い出し、検知結果への影響を確認するテストです。
検知ロジック自体は正しくても、入力データの問題で精度が落ちていないかを検証することができ、誤検知・検知漏れの削減が期待できます。
バルテスでは、実際のデータセットを用いてデータ品質の不備パターンを洗い出し、どこを改善すれば検知精度が上がるかを具体的に指摘します。
データの不備による検知精度の低下を防ぐためにも、検知ロジックだけでなく、その前提となるデータ品質を継続的に確認することが重要です。
4-3. 運用品質(妥当性検証・継続モニタリング)
近年はルールベースだけでなく、AIや統計モデルを利用した検知機能を持つAMLシステムも増えています。そのため、運用品質の観点で妥当性検証・継続モニタリングを行います。
具体的には、既知の事例やテストデータを用いて、検知モデルや検知ロジックが想定どおりの精度を発揮しているかを定量的に確認します。
代表的な評価指標として、Recall(再現率)やPrecision(適合率)があります。
Recallは、「本来検知すべき疑わしい取引のうち、どの程度を検知できたか」を示す指標です。一方、Precisionは、「アラートとして検知した取引のうち、実際に疑わしい取引がどの程度含まれていたか」を示します。
これらを継続的に測定することで、感覚ではなく数値に基づいてモデルやルールを評価・改善できるようになります。
バルテスでは、モデルや検知ロジックを更新するたびに同じ基準で再検証できる仕組みを構築し、精度が改善したのか、あるいは劣化していないかを継続的に確認できる体制づくりを支援します。
検知精度について客観的な根拠を示せる状態をつくるためにも、妥当性検証は重要です。
テストすることで証明できる仕組みになる
テストを組み込むことで、AMLシステムは「入れて終わり」の状態から、「機能していると証明できる」状態に変わります。
シナリオテストやデータ品質テストによって、検知ロジックが機能する根拠を積み上げられるようになるからです。
きちんと検証ができれば、マネー・ローンダリングの検知漏れ・誤検知が減るだけでなく、金融庁の検査で問われても根拠を示せる仕組みになり、担当者が代わっても品質を維持できる運用体制が手に入ります。
テストを体系的に組み込み、検知精度の向上だけでなく、「なぜこの検知ロジックで問題ないと言えるのか」を第三者に説明できる状態を構築していきましょう。
まとめ
AMLシステムは、導入して稼働させるだけで十分とはいえません。
重要なのは、想定したリスクを適切に検知できているか、誤検知が過度に発生していないか、そしてその結果を客観的に説明できるかまで確認することです。
そのためには、シナリオテストやデータ品質テスト、モデルの妥当性検証などを通じて、AMLシステムが実際の業務やリスクに対して有効に機能していることを継続的に確かめる必要があります。
適切なテストを行うことで、検知漏れや誤検知、属人的な運用といったリスクを抑えるだけでなく、「なぜこの設定・判断で問題ないのか」を説明できるAML運用につなげることができます。
マネー・ローンダリング対策において目指すべきなのは、システムが「動いている」状態ではなく、「適切に機能していることを確認・説明できる」状態です。
ソフトウェアテスト・品質保証を専門とするバルテスでは、AML分野の国際資格保有者と品質保証の専門家が連携し、AMLシステムの品質診断からテスト設計・実施まで支援しています。
自社のAMLシステムに必要なテストが十分に行えているか、見直したい場合はお気軽にご相談ください。


