ソフトウェア開発手法は、プロジェクトの規模や目的に応じて最適なものを選択することが成功の鍵になります。アジャイル開発やウォーターフォール開発など、さまざまな手法が提案されていますが、その中でもV字モデルは、品質向上や効率的な開発を実現するための手法として改めて注目されています。
本記事では、V字モデルの基本概念や構造、メリットと課題について解説いたします。また、V字モデルをさらに発展させたW字モデルとの比較や、実務におけるV字モデルの活用についても取り上げます。ぜひ、本記事を参考にして、V字モデルの重要性を学びましょう。
V字モデルとは何か？
1-1 V字モデルとは？
V字モデルとは、ウォータフォールモデルの一種で、開発プロセスをV字型に表現したモデルです。
左半分は要件定義や設計などの開発工程を示し、右半分はテスト工程を示しています。
V字モデルでは、開発工程とテスト工程が対応している点がポイントです。
ウォータフォールモデルの場合、設計フェーズとテストフェーズが独立しています。
したがって、テストで見つかった不具合がどの設計段階に起因しているのか分かりづらいことが課題でした。
それに対して、V字モデルでは、開発工程とテスト工程が対応しているため、不具合の原因を特定しやすくなります。
問題点に起因している箇所が明確になることで、次のプロジェクトの改善につながったり、品質向上につながったりするといったメリットがあります。
1-2 各工程と役割
V字モデルでは開発工程とテスト工程を左右に分けて表しています。
各工程の役割についてご紹介します。
■開発工程
・要件定義
・基本設計
・詳細設計
■テスト工程
・単体テスト
・結合テスト
・システムテスト
V字モデルのメリット
V字モデルのメリットとして、以下のような点が挙げられます。
・テスト内容や進捗がわかりやすい
・品質向上や開発全体の効率化が図れる
それぞれ詳しく解説します。
2-1 テスト内容や進捗がわかりやすい
V字モデルは、テスト内容や進捗が分かりやすいという利点があります。
V字モデルでは、開発工程とテスト工程が対応しているため、どの工程で何のテストを実施するかが明確になっています。
そのため、テスト内容が把握でき、網羅性や整合性を確保することができます。
また、工程ごと進んでいくため進捗も管理しやすいです。
2-2 品質向上や開発全体の効率化が図れる
品質向上や開発全体の効率を上げることができる点もメリットです。
V字モデルでは、開発工程の段階でテストを見越した検討を行うため、要件の認識ズレを防ぎ手戻りを減らすことができます。
また、各段階でテストが実施されるため、不具合の原因が特定しやすいです。
たとえば、結合テストでの不具合発覚が多い場合、基本設計のやり方を見直すことで、将来的な不具合発生数を減らせる効果が期待できるでしょう。 そのため、品質向上につながるだけでなく、開発プロセス全体の効率化にもつながります。
V字モデルのデメリット
V字モデルを取り入れる際の注意点として、以下のような点が挙げられます。
・設計変更が発生した場合の対応が難しい
・テスト工程の遅延が全体の進捗に影響する
それぞれ詳しく解説します。
3-1 要件変更が発生した場合の対応が難しい
V字モデルは、要件変更が発生した場合の柔軟な対応が難しい傾向があります。
なぜなら、開発工程とテスト工程が対応しているため、要件や仕様が変更されることでテスト工程にも影響が出てしまうからです。
変更が大きいほど、テストの内容にも影響が出るため、全体の進捗が大幅に遅れてしまう可能性があります。
3-2 不具合の発見が遅れると修正コストが高くなる
V字モデルでは、開発の後半にテスト工程が配置されています。
そのため、要件や設計のミスがテスト工程になってようやく発見されるケースもあります。
ミスの発見が遅れるほど修正にかかるコストが増加し、スケジュールが遅延すればテスト工数が圧迫される恐れもあります。
そのため、V字モデルでは十分なテスト工数を事前に確保しておくことが重要です。
V字モデルが向いているプロジェクト例
V字モデルは、すべてのプロジェクトに適しているわけではありません。しかし、要件が明確で変更が少なく、かつ品質や安全性が重視されるプロジェクトにおいては、その構造的な特性が大きな効果を発揮します。
以下では、V字モデルが特に向いているプロジェクトの具体例について見ていきます。
4-1 要件が定まっており変更が少ないプロジェクト
V字モデルでは、開発の初期段階で要件定義や設計をしっかりと固め、その内容に沿って開発工程からテスト工程と順序立てて進めていきます。
そのため、要件が最初から明確で、かつ変更がほとんど発生しないプロジェクトはＶ字モデルに向いているといえるでしょう。
たとえば、既存システムのリプレースや、法制度に基づいたシステム構築などです。
一方で、開発途中での仕様変更や要件の追加が頻発するようなプロジェクトには不向きです。
4-2 安全性や品質の確保が求められるプロジェクト
V字モデルでは、各工程に対応するテストフェーズが組み込まれており、段階ごとに品質をチェックしながら進めていく構造となっています。
そのため、安全性や品質を確実に担保する必要があるプロジェクトにおいて、非常に有効な手法です。
たとえば、医療機器や車載システム、航空宇宙関連のソフトウェアなど、人命や社会的インフラに関わる分野などです。
これらの分野では、ソフトウェアの不具合が重大な事故につながる可能性があるため、開発プロセスの厳密な管理と検証が必須です。そのため各フェーズでテストを実施するＶ字モデルは向いているといえるでしょう。
4-3 明確なプロセス管理が必要なプロジェクト
官公庁向けのシステム開発や大手企業の基幹業務システムなどでは、開発の各フェーズにおいて厳密な管理や進捗報告、成果物の提出が求められます。
V字モデルは、工程ごとに明確な区切りと成果物を持ち、それぞれに対応したテストやレビューが実施されるため、こういったプロジェクトに向いています。
また、各工程が順番に進んでいくので、スケジュールの管理や品質保証に関するエビデンスの整備や、組織的なプロジェクト運用もしやすいでしょう。
外部監査や第三者評価が求められる場面でも、V字モデルは相性の良い手法です。
W字モデルとV字モデルの違い
V字モデルをさらに発展させたW字モデルという開発手法があります。
W字モデルの特徴は、開発工程とそれに対するテスト工程を同時に行う点です。
つまり、前述したV字モデルにおける課題の一つである「不具合発見の遅延」を極力減らすことができるのがW字モデルです。
また、テスト工程の作業を同時に行うので、手戻りのリスクを軽減できるというメリットもあります。
V字モデルの場合、設計フェーズが終わった段階でテストエンジニアはテスト設計、テストケースの作成に入ることができます。そのため、開発工程が行われている間にテスト工程の準備を進められます。
一方、W字モデルの場合、開発工程とテスト工程が同時に進行するため、テストエンジニアは設計工程にも参加し、テストの観点から開発への関わりが求められます。
テスト工程自体は、V字モデルとW字モデルで大きくは異なりません。
ドキュメントに対する仕様漏れ、コンフリクトが発生していないかと言ったテストは追加されますが、開発工程後のテストはV字モデルと同じです。
単体テスト、結合テスト、そしてシステムテストといった工程が行われて出荷されます。
V字モデルを取り入れる際のポイント
V字モデルを成功させるためには、以下のようなポイントに注意する必要があります。
- テスト工程を重視した開発体制を整える
- テスト工程の進捗管理を徹底する
それではVモデル成功のためのポイントや活用例を、詳しくご紹介していきます。
6-1 テスト工程を重視した開発体制を整える
V字モデルでは、テスト工程を重視した開発体制を整える必要があります。
テスト工程を中心に据えて品質管理体制を整え、最終成果物の品質向上にプロジェクト全体として取り組まなければなりません。また、テスト結果を対比する工程にフィードバックし、同じ不具合が発生しないよう改善を繰り返します。
6-2 テスト工程の進捗管理を徹底する
V字モデルでは、テスト工程の進捗管理が重要です。テスト工程が遅れると全体の進捗に影響が出るため、進捗管理を徹底しましょう。
また、テスト工程についてもあらかじめ見積もり、完了した際には振り返りを実施します。
何か問題があって遅延した場合には、次回には繰り返さないようにするか、テスト工程の見積もりを見直すなどの対策を講じていきましょう。
まとめ
本記事では、V字モデルの概要と、W字モデルとの違いについてご紹介しました。
V字モデルは、開発工程とテスト工程をリンクさせることで、テストを中心に据えた開発工程を実現できるため、製品の品質向上や開発の効率化が期待できます。
本記事を読まれた方の中には、V字モデルを古いと思われる方もいるかもしれません。しかし、日本の開発現場においては、V字モデルを用いているプロジェクトは今も数多いです。ぜひV字モデルを理解し、品質の高い製品を提供できるよう開発側とテスト側で協力し合い、プロジェクトを進めていきましょう。
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