2024年5月29日、「VALTES QUALITY DAY」が開催された。以下、GOとバルテス社員による対談セッションの様子を紹介する。
本セッションは「品質とスピードを両立し、ビジネスをドライブさせる! GO株式会社のQA組織とは」がテーマ。ゲストにGO株式会社 澤田雄一氏、同社 丸靖和氏を迎え、バルテス 貝本康次が司会進行を務めながらGO社のQA組織が取り組む「効率化のためのプロセス見直し・改善」を掘り下げた。
登壇者紹介
その都度課題を洗い出し、効率化のための改善ネタを集約
GOではさまざまな交通課題に対し、ITを駆使して多様なサービスを展開している。主なプロダクトにはタクシーアプリ『GO』、モビリティ領域における脱炭素化を推進する『GX(グリーントランスフォーメーション)』、交通事故削減支援サービスの次世代AIドラレコ『DRIVE CHART』の3つがある。澤田氏は「タクシー産業の課題解決を起点に、交通・社会課題の解決を目指すことが最大のミッション」と話す。
澤田氏、丸氏が所属するクオリティマネジメント部では、「プロダクト品質の信頼性評価」「欠陥の作り込み防止」「意思決定・成長/改善のための分析・情報提供」を3本柱とする。全プロダクト開発における品質を管理・評価する専門家集団であり、開発部門から独立することでより良いサービスの提供に集中できるのが特徴だ。
2020年4月にJapanTaxiとDeNAの『MOV』、『DRIVE CHART』事業が統合して以降、QA(品質保証)組織は導入期、成長期、強化期のステップを踏んできたが、わずか2年で強化期に到達した。
貝本が「統合の混乱もあったはずなのに、2年で強化期に入っているのは驚異的なのでは?」と問いかけると、丸氏は「文化や仕事の進め方の違いはありましたが、1つのゴールに向かって皆が協力したことが短期間で成長した要因だと思います」と語った。ちなみにバルテスでは導入期から成長期に至る時期にテストの支援に加え、ナレッジベースの作成とブラッシュアップを繰り返し行なってきた。現在もこのナレッジベースはクオリティマネジメント部以外の部署も含めて新メンバーのオンボーディング資料などに活用されている。
QA組織では効率化のためのプロセス見直し・改善を推進している。今回は継続的なプロセス改善スキーム、リグレッションテストの見直し、データドリブンの3つを紹介した。
最初の継続的なプロセス改善スキームに関しては、そのつど課題を洗い出して集約し、効率アップにつなげる各種施策の検討、アクションを実施する。改善ネタはテスト設計・実施の生産性向上や工数削減、管理業務の効率向上、コミュニケーションコスト削減、スイッチングコスト削減など多岐にわたり、「単純に前に進むだけではなく、取り組んだ中で廃止したほうがいい、見直したほうがいいことも含めて考えながら日々対応しています」と丸氏は説明する。
一般的に改善ネタを社内から収集しようとしても出てこないことが多い。しかし、「めんどくさいリスト」と言い方を変えるだけで業務に対する困りごとが出てくるようになったという。この取り組みはQAに限らず、プロダクトマネージャー、デザイナー、開発エンジニアなど多方面から意見を求めている。
丸氏は「間違ったことをやっていなくても、どうしても従来の手法に固執してしまうことがあります。なので新メンバーの意見も踏まえながら、いろんな視点を採り入れるようにしています」と語る。また澤田氏は「仮に実現できなくてもいいから言ってほしいと投げかけると、たくさんの意見が出てくるようになります。ヒアリングする側にも工夫が必要です」と秘訣を語った。
次のリグレッションテストの見直しについては、機材構成や機能の増加に伴いテスト項目が肥大化したことが契機となった。当初は時間に追われ、機能テストから単純に抜粋して作ることを繰り返していたためだ。「そこでバルテスのメンバーが中心となって機能ごとに分類していただきました。それにより、選定作業の負荷軽減、網羅性の確認のしやすさにつながり、リグレッションテストを見直すことができました」と丸氏は振り返る。
このときに行なった分類方法は、バルテスの体系的なテストドキュメント「Quintee(クインティー)」の考え方を応用して適用することで、実現させることができた。
3つ目のデータドリブンの取り組みでは、すべての業務工数、テスト活動の情報をGoogleスプレッドシートに記入し、GoogleのBigQuery(ビッグクエリ)に蓄積。分析活動を通じて業務改善につなげたいとする。データの集約はできつつあるが、分析はまだ十分にできていないとのことで、GO社では引き続きチャレンジしていく予定だ。
独自開発したツールで工数やコストを大幅に削減
そこからさらにブレイクダウンし、独自開発した代表的な業務効率ツールについて触れた。その内容は、不具合管理ツール、テスト項目書自動作成ツール、案件管理表、工数管理文脈(作業時間記録)、開発制限事項自動管理ツール、テスト自動化のテスト結果自動管理ツールの6ツールである。
不具合管理ツールは、Jiraによる管理の煩雑さを解消するために開発した。不具合チケット管理に使用しているJiraの情報をGoogleスプレッドシートに自動出力することで不具合状況をリアルタイムで分析。さらに担当チケット/進捗状況などの各種情報をSlackへ通知してチケットの確認漏れを防止し、業務負荷を軽減している。
テスト項目書自動作成ツールは因子水準表からテスト項目書を自動出力。テストツールのPictMasterなどでは対応できない付随情報の反映にも自動で対応し、テスト項目書を毎回作る手間を削減した。
案件管理表は資料格納先となるGoogleドライブ内でのフォルダ作成、各種テンプレートファイルのコピーを実施するツールであり、テスト準備工数の大幅な削減を実現した。
工数管理文脈(作業時間記録)は先に触れたデータドリブンの取り組みの一環だ。メンバー全員がテスト業務だけでなく、各種ミーティングへの参加工数など日々の作業時間をすべて入力することで、業務効率化の分析へとつなげる。
開発制限事項自動管理は、あるメンバーからの提案が起点となった。テスト開始時は機能がまだ実装できておらず、バグがあるなどの理由で開発制限事項が発生する。それを試験表や項目書に反映してブロックをかける作業は非常に工数がかかるうえに、反映漏れや解除漏れなどが発生してしまうことが悩みのタネとなっていた。
そこでGoogleスプレッドシート、Google Apps Script、Asana、Slackを連携して開発制限事項の管理を自動化。開発制限事項の転記作業工数、制限事項に関わるテスト関係者のコミュニケーションコストなどを大きく削減することに成功した。
最後のテスト自動化のテスト結果自動管理は、テスト結果を横断的に分析できない状態を打破するために開発した。テスト自動化ツールベンダーが提供しているAPIを活用し、Googleスプレッドシートに自動でテスト結果を取り込む仕組みを構築。テスト実行後のリザルト一覧の自動集計、リザルト一覧からの詳細なテスト結果レポートの自動生成を可能にした。
組織に縛られず関係者を巻き込んで、“品質とスピードの両立”に挑戦していく
QA組織は上流工程の取り組みにも積極的だ。その思いを澤田氏はこのように語る。
「QAはテストだけが仕事ではありません。上流工程にどれだけ貢献できるかもポイントです。PRD(プロダクト要求仕様書)、デザイン作成段階でのインスペクションレビューをはじめ、ビジネス領域における要件の議論段階までQAエンジニアが入り込み、上流工程からの品質向上に向けた活動を実施中です」(澤田氏)
ただし、これらの活動はそれぞれのステークホルダーに対する地道な信頼の積み重ねにより実現できたものだ。インスペクションレビューに関しても開始までには1年半ほどかかっているそうで、澤田氏は「QAエンジニアがビジネス領域で関わっていくのは難しい面が多々ある」と感想を漏らす。その反面、確かな手応えも感じている。
「ヒアリングしたことによって、テスト設計をするときに『ビジネス側はこういう機能を求めているからこういうテストをしよう』という発想が出てきます。その結果、テストの質が向上する。やはり上流からQAが入ってくることは品質向上につながると考えています。また、定量的な分析によってQAエンジニアが上流工程に関わる効果を各ステークホルダーに共有することも重要です。分析結果から上流工程でのプロセス改善にも役立てることができるからです。これもデータドリブン活動の1つと言えるでしょう」(澤田氏)
最後に丸氏は、今後の展望について次のように述べた。
「GOのQAエンジニアは開発からQA工程での出力向上のためにワーキンググループを定期的に開催し、めんどくさいリストを導入して関係者を巻き込みながら常に改善のきっかけを探っています。各部署とフラットに会話できる環境が整っているのが我々の強み。関係者と協力して、これからも『品質とスピードの両立』にチャレンジしていきます」(丸氏)
VALTES QUALITY DAYでは品質向上に力を入れる各社をゲストに迎え、その取り組みを伺った。各セッションのレポートは特設サイトに掲載している。
(所属・役職は2024年5月時点のものです)