Loading...

最終更新日時:2024.08.09 (公開日:2024.08.09)

【VALTES QUALITY Dayセッションレポート】交通インフラの未来への道 サービス拡大と品質向上に向けた取り組み

2024年5月29日、「VALTES QUALITY DAY」が開催された。JR東日本情報システム(以下、JEIS)とバルテス社員による対談セッションは「交通インフラの未来への道 サービス拡大と品質向上に向けた取り組み」がテーマ。JR東日本のシステム品質を守るJEISの挑戦に迫った。

JEISからは吉川眞之氏、石井耕司氏が登壇。バルテスからは角田誠、林和生が登壇した。司会進行は石原一宏が務めた。

登壇者紹介

右から株式会社JR東日本情報システム取締役 Suica・駅サービスソリューション本部長 駅サービスシステム部長 吉川 眞之氏
株式会社JR東日本情報システム Suica・駅サービスソリューション本部 駅サービスシステム部 インターネット開発PJ マネージャー 石井 耕司氏
バルテス株式会社 取締役 角田 誠
バルテス株式会社 エンタープライズ品質サービス事業部 クロスソリューション部 副部長 林 和生
バルテス・ホールディングス株式会社 品質ビジネスイノベーション部 部長 石原 一宏
(所属・役職は2024年5月時点のものです)

「シームレスな移動の実現」で鍵を握るえきねっと

 その名の通り、JEISはJR東日本の情報システム子会社であり、Suica・駅サービスソリューション本部を含む5つの事業本部で構成されている。Suica・駅サービスソリューション本部は主にJR東日本の旧販売系システム、そして最近ではMaaSなどを手がける部署と密接に連携した事業やシステム構築を行なう。

 現在、JR東日本グループではグループ経営ビジョン「変革2027」を掲げ、大きな変革のの1つとして「シームレスな移動の実現」に力を入れている。吉川氏はその狙いを次のように語る。

 「コロナ禍を経て非接触サービスが主流になり、“いかにお客様に快適かつシームレスに移動していただくか”がサービス戦略の核になりました。ここではSuicaのような媒体を中心に、鉄道利用に限らず、駅構内での物品やサービス購入、タクシーなどの二次交通、ホテルの宿泊などをすべてシームレスにつなげていきたいと考えています」(吉川氏)

 シームレスな移動の鍵を握るのは、2001年から開始したWebサービスの「えきねっと」である。吉川氏が「窓口に並んで切符を購入することが不便だとの声に応えて誕生しました」と語るえきねっとは、時代のニーズとともにサービスを拡大してきた。(参考:JR東日本グループ経営ビジョン 変革2027 )

 「最近ではえきねっとでもチケットレスが普及し、切符を持たずにICカードで改札を通過できるようになりました。将来的には新幹線や在来線の特別列車だけではなく、ローカル線も含めてJR管内の各鉄道をチケットレスでシームレスに移動できるようにしたい。さらにさまざまな乗車サービスや利用シーンとの連携を視野に入れ、ますます進化を遂げていく必要があります。そのためのシステム開発、品質の維持が我々にとって最大のテーマになっています」(吉川氏)

 続いて石井氏が、えきねっとシステムの状況と課題を説明した。石井氏によれば、現在のえきねっとはシステムの重要性、複雑性が増しているという。

 「まず重要性についてですが、旧来のみどりの窓口からWebやアプリへと購入手段が移行し、利用率が非常に高まっています。お客様にとっても当たり前のサービスになったことでシステムの重要性が増し、求められる品質レベルが上がってきています。

 複雑性については、パターンが無数に存在することが要因に挙げられます。サイト、予約種別、予約形態、乗り継ぎ、列車種別、券種、席種、申し込み人数、決済方法、各種割引などが複雑に交差し、ここに乗車変更や払い戻しなどが加わるなどしてすべての要素が掛け算になるのです」(石井氏)

えきねっとシステムの課題となっているシステムの複雑性

効果的なテストで網羅性を高めながら品質向上に成功

 複雑な購入パターンを網羅し、高い品質を保つためには専門的なテストが不可欠となる。しかしJEISでは重要化、複雑化するテスト工程を自社人材だけでは補うことができず、ソフトウェアテスト専門会社であるバルテスに依頼。プロジェクトリーダーを窓口としてJEIS側の管理工数を最小限にしつつ、品質を高めながら工程を進捗する体制を構築した。

 専門家を入れたことで、テストの結果はポジティブなものになった。JEISからはえきねっとに関する業務知識を、バルテスからはテストメソッドを持ち寄り、綿密な打ち合わせを重ねながら網羅的なテストパターンを作成した。

 「バルテスとの継続的なパートナーシップにより、1.案件ごとにえきねっとシステムのテストノウハウを積み上げることによる効果的なテストの実施、2.テストノウハウを資産とし、新規参画者のハードルを下げることによる業務の波動への対応で効果を上げることができました。今後もノウハウを蓄積し、過去案件のテストデータも取り込んでいくことで、より効果的・効率的なテストを行なっていく予定です」(石井氏)

バルテスとの協業であげた効果

 バルテスは2018年度からJEISの支援を開始。総合テスト支援に始まり、段階的にサポート範囲を拡大してきた。バルテスの林は「これまでの5年間でポイントは3つ。1つ目はテスト構造設計の導入、2つ目は品質管理支援(QMO支援)、3つ目はテスト管理ツールの導入です」と語った。

 1つ目のテスト構造設計の導入では、段階的にテスト設計を進めることでテスト全体を見える化。これによりテスト観点の抜け漏れや重複を防止した。また、因子水準表や組み合わせテスト技法を用いて漏れなく最小限にしたことで、網羅性を高めながら品質向上に貢献できたという。

 2つ目の品質管理支援は2022年度と2023年度で対応。品質をモニタリングして報告することで継続的な改善を推進した。3つ目のテスト管理ツールの導入はテスト実施管理の効率化やテストケースの資産化が目的であり、大量のテストケースの管理とテスト状況の見える化に役立った。そのうえで林は「今後はテスト自動化や上流工程からの支援など、えきねっとシステムに関する支援範囲を拡大していきたい」と語った。

2018年度から始まった支援と今後の予定

コミュニケーションを取り、一体感を持って進めることを意識

 セッションの後半は、石原が質問形式で進めるディスカッションを実施。最初の質問は「業務知識とテストメソッドを現場のテストに落とし込む際に何が重要だったか」というものだ。

業務知識とテストメソッドの落とし込み

 石井氏は「今回はお互いの知恵を持ち寄ることから始まったので、密接にコミュニケーションを取って一体感を持って進めることを意識しました。具体的には早めに成果物を作り、何段階にも分けて打ち合わせを重ねました」と振り返った。

 林は「我々にはテスト技法の技術的なベースがありますが、業務知識が皆無ではコミュニケーションが取れません。ですからテストパターンに落とし込む際は機械的な組み合わせではなく、システムや業務への影響度などを踏まえ、どんなテストが重要なのかを考えながら進めました」と語った。

 次は「5年間を振り返っての感想」を聞いた。これに関しては、マネージメントの立場から吉川氏、角田がそれぞれ次のように答えた。

 「この取り組みでは、網羅性と効率性の二律背反をどのように実現するかがポイントになります。網羅性の観点では、我々や各種ベンダーは経験が長いため、自分たちの目線で優先順位を決めてしまう傾向があります。それゆえに偏りがあったり、無駄なパターンが重複したりすることがあるのも事実です。

 一方でバルテスは業務知識がないところから入ってきているので、ニュートラルな視点で“効率的にどこをつぶせばいいのか”を判断できました。逆に大事な部分が抜け落ちていることもありましたが、そこに関してはお互いのコミュニケーションを通じて優先順位をつけたり、重要度を入れ替えたりしてきました。そのアプローチが上手く行ったのだと思います」(吉川氏)

 「お互いが違うところを見ていたり、解像度が違ったりするとどうしてもズレが生じてしまいます。だからこそ弊社ではISO29119(ソフトウェアテストの標準規格)に基づいた体験にきちんと落とし込んでドキュメント化をしています。わかりやすく、ズームイン、ズームアウトができる状態のドキュメントをお互いに参考にしながらコミュニケーションを取るようにしているのです。今回のようなプロジェクトでは、きちんとしたドキュメントを作ることが共通理解には必要だと思います」(角田)

 ここまでのやり取りを見ればわかるように、肝は“コミュニケーション”に代表される人間力にある。事実、JEISに刺さったのは技術面だけではない。印象的なエピソードを問われると「テスト現場の活発な意見のやり取りを見て“試験愛”“システム愛”を感じることができました」(吉川氏)、「ベンダーやクライアントとの打ち合わせにも入ってもらうなど、最初から懐に入り込んでくれました」(石井氏)と、それぞれがバルテス社員のマインドセットを高く評価した。

 最後の質問は「お互いのビジネスの方向性や思いについて」。

 吉川氏は「将来的には、リアルの窓口で取り扱う業務をすべてシステムに置き換えたい。高い利便性を担保しながら効率的に商品を販売するシステムは極めて難しいものですが、チャレンジしていかないと価値を生み出せません。今後もより新しいことに取り組んでいきます」と展望を述べた。

 角田は「世の中のシステムはどんどん複雑化していますが、我々はいかにそれらをわかりやすく要約するかを考えていきたい。ツールやAIなどのテクノロジーを利用して、全体の底上げを図ることも視野に入れています」と結んだ。

>>レポート資料のダウンロードはこちら

VALTES QUALITY DAYでは品質向上に力を入れる各社をゲストに迎え、その取り組みを伺った。各セッションのレポートは特設サイトに掲載している。

(所属・役職は2024年5月時点のものです)

CONTACT

お問い合わせ

バルテスでソフトウェアの品質向上と安全を手に入れよう