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最終更新日時:2024.08.09 (公開日:2024.08.09)

【VALTES QUALITY Dayセッションレポート】アパレル企業のDXにおける品質戦略

 バルテスが主催するカンファレンスイベント「VALTES QUALITY DAY ~DX/AI時代における品質向上の価値~」が、2024年5月29日に開催された。

 同イベントでは、「アパレル企業のDXにおける品質戦略」をテーマにバルテスの逆井賢と小宮理恵子がアダストリアの櫻井裕也氏と対談を実施。グローバル進出とDXによる変革を迎えているファッション業界において、店舗/ECの融合・独自物流網・業務支援AIなどのさまざまなシステムの品質をどう担保しているのか、その戦略を聞いた。

登壇者紹介

株式会社アダストリア
執行役員
デジタルソリューション本部長 兼 DX本部長
櫻井 裕也氏

バルテス株式会社
品質マネジメントサービス事業部
流通品質サービス部
リーダー
小宮 理恵子

バルテス株式会社
品質マネジメントサービス事業部
流通品質サービス部
副部長
逆井 賢

アダストリアのDXをバルテスが2018年からサポート

 アダストリアは、ショッピングセンターを中心に展開するカジュアルファッション専門店チェーンである。2023年に創業70周年を迎え、30を超えるブランドを国内外に約1400店舗展開。さらに、公式Webストア『.st(ドットエスティ)』は1750万人の会員を有する。また、マルチカテゴリー戦略による多様な商品を展開しており、アパレルはもちろん服飾雑貨やライフスタイルにまで幅広く対応することで、「顧客がより楽しんでもらえるようなサービスを展開しています」と櫻井氏は語る。

 アダストリアは、約4年前に示した中期経営計画で4つの大きな柱を設定。1つ目は収益改善と成長を両立させる「マルチブランド、カテゴリー」、2つ目はECやデジタルを活用して顧客体験を向上させる「デジタルの顧客接点、サービス」、3つ目はグローバルとローカルを掛け合わせた造語でワクワクを海外に届ける「グローカル」、4つ目は飲食を代表とする新たな事業にチャレンジする「新規事業」である。そして、将来的には2026年2月期3100億円、営業利益率7.2%を目指している。

アダストリアの成長戦略の概要

 成長を見据え、システムに関しても強化を図るべくここ数年で大規模な投資を実施している。2024年2月期の実績で「36億円」、2025年2月期は「38億円」を計画。「成長のためにはシステムへの投資が重要であり、会社のど真ん中で取り組んでいます」と櫻井氏は力強く語る。

 同様に力を入れているのがDXの推進だ。「社員、スタッフが“ワクワク”して働ける環境を作る」「世の中を“ワクワク”させるサービスを提供し続ける」というDXの2本柱を設定。具体的な取り組みとして、自社ECの『.st』ではECを「Electronic Commerce」から「Entertainment Community」に進化させるべく、「スタッフボード」と呼ばれるコンテンツを展開。「4000名以上のスタッフが『.st』内で自身のスタイリングなどの個性を発信することができ、さまざまなお客様に楽しんでもらえるようなコミュニティ作りをしています」と櫻井氏は語る。

アダストリアのDXの2本柱

 加えて、購入商品の幅を広げるために『.st』の「オープン化」も推進しており、これまでにピーチ・ジョンやヤーマンなどが『.st』に参画。アダストリアがこれまでに取り扱ってこなかった商材を取り扱うことで顧客がより楽しんで買い物ができるようなサービス提供を目指している。

 そのほか、ECの世界をリアルでも体験できるOMO(Online Merges with Offline)ストア『ドットエスティストア』を全国に10店舗以上展開。新たなサービスとして、スタッフの愛用品を購入できるフリマサイト『ドットシィ』や、メタバースでのデジタルスキンを取り扱うバーチャルファッションモール『StyMore(スタイモア―)』なども展開。海外版の『.st』を立ち上げたほか、中国が取り扱うアパレルブランドを海外展開する越境EC『Wardro(ワードロ)』を2024年2月にオープンさせるなど加速度的なチャレンジを遂げている。

OMOストア『ドットエスティストア」のイメージ

 さまざまなチャレンジに取り組むアダストリアだが、DX部門を取り巻く環境も「大きく変化しています」と櫻井氏は説明する。「例えば、新たなサービスや事業が続々と開始するためDX部門としてもかなりのスピード感が求められます。また、自社の業務システムやECが他社でも利用可能なプラットフォームになりつつあることで、求められる品質はより高くなっているのが実情です」と櫻井氏は語る。

 スピードを上げる策の1つとして、国内パートナー中心の開発体制から「海外パートナー(Offshore Development Center:ODC)&内製化」を推進。品質面では、独自の品質管理体制からバルテスとの協業による強化を図っている。

 バルテスがアダストリアの品質支援をスタートしたのは2018年。当初は2名体制の小規模なチームで、EC領域のテスト支援を行った。そこから業務システムへのテスト支援などにも領域を拡大し、在庫管理や会計の全システムに関わる2022年の大規模改修に際しては、その全般的なテスト実施をバルテスが担当。これにより、アダストリアのシステム全般に関するノウハウがチーム内に蓄積され、支援対象領域が飛躍的に広がったという。そしてここから現在に至るまで、基幹システムも含めたシステム全般のテスト支援をバルテスが担っている。

バルテスの品質支援の流れ

 また、最近ではEC化の加速にともなう「倉庫自動化プロジェクトへのテスト支援」や、グローバル展開に対する「海外ECへのテスト支援」なども担当。現場担当であるバルテス 小宮は「加速度的に進化を続けるアダストリアの最新ビジネスに並走する動きを続けています」と胸を張った。

品質や生産性の向上をバルテスとともに取り組んでいく

 後半は、パネルディスカッションを実施。バルテスの逆井がまず「バルテスの導入前・導入後で品質はどう変わりましたか?」と問うと、櫻井氏は、「バルテスの参画前はアダストリアの社員がテストを実施していたため、品質の観点では障害がほぼ毎日起きていたうえに、障害対応が繰り返し発生する状態でした。一方でバルテスの参画後は、業務に影響が出るようなトラブルが格段に減少し、ECやユーザーに対するサービスレベルが飛躍的に上がりました。社員の働き方も新サービスの検討や既存サービスの改善などに集中できるようになった点はとても大きかったです」と振り返る。

 この話を受けて逆井は、専門的な業務を専門家に外注することで自分たちが本来やるべき作業に集中できるようになるという副次的な効果に注目。バルテスとしてもそれが、我々が存在する第一の理由だと考えると訴えた。

 櫻井氏はこれに同意しつつ、「事業の成長やDXの推進において、コア事業とそれ以外の領域をきちんと分けることが重要です。それ以外の領域についてはその道のプロに任せるなど、取り組みにメリハリをつけることも大事だと考えてバルテスに参画してもらいました」と付け加えた。

 次に逆井から、「流通・小売関連システムに特有の品質課題について」の質問が投げかけられた。ここでまず、櫻井氏がポイントの1つに挙げたのは「ビジネスモデル」。そもそも、流通・小売業界は1つのサービスを提供するうえでさまざまなステークホルダーが関わっており、そのステークホルダーを結ぶラインがどこか1つでも途切れてしまうとビジネスは回らない。つまり、ビジネスモデル自体が「“さまざまなバリューチェーンをつないで顧客にサービスを届けている”という点が大きな特徴です」と櫻井氏は説明する。

 「これは流通・小売を支えるシステムでも同様です。さまざまなバリューチェーンをつなぎ、上流からきちんと下流へデータが流れてこないと最後の店舗販売まで至りません。バリューチェーンのつなぎがとても重要になるのです」と櫻井氏は続ける。実際、サービス提供までにはいろいろなシステムでデータの受け渡しが発生しているため、例えば品質課題だけを見ても上流から下流まで、どこか1つがダメになってもバリューチェーンは切れてしまうため注意してシステムを構築する必要があるのだ。

 流通や小売に関するサプライチェーンマネジメントに関するシステムには「(サブシステムも含む)システムの総数が多い」ことや「メインとなるシステムが定義しにくい」といった特徴がある。だからこそ、横断的に品質を考える必要があり「そこに難しさを感じている」と逆井は実感を述べた。これを受けて櫻井氏は「バルテスはその点、バリューチェーン自体のプロセスを非常に理解し、アダストリアのシステムの背景や現状などもきちんと把握してくれました。これこそが、品質管理の面で大きな意味を持っていると思います」と評価した。

パネルディスカッションの様子。左から逆井氏、櫻井氏、小宮氏

 次のテーマは、「外注化の品質的メリット・デメリット」について。体制として「社員」の下に「開発ベンダー」と「テストベンダー」が連なる場合、櫻井氏はメリットとして「お互いの役割分担がはっきりする」という点を挙げたが、逆に「それがデメリットになることもある」とも付け加える。境界がある程度はっきりしてしまうと、情報やインプットなどの受け渡しにそれなりのマンパワーが必要になってくるためだ。

 また、社員に関することとして、例えばテストベンダーがさまざまなテストを行うなかで「そのノウハウをどうやって社員に蓄積していくか。それがとても重要です」と櫻井氏は続ける。テストベンダーに任せることが通常ルーチンになってくると「社員の役割が薄まり、育成がなかなか進まないという現状があります」という認識を示した。逆井も「それぞれが持つノウハウをどう標準化し、どう共有するかというテーマはある」と同意した。

 最後に、櫻井氏は「アダストリアとバルテスの今後の展望」について次のように述べた。

「バルテスとのこれまでの関係性の継続を踏まえつつ、今後はサービスの品質向上外部のプロ目線で一緒にもう一段上げてほしいと考えています。業務効率の改善などにもチャレンジし、開発全体の生産性を上げるような取り組みを一緒に進めていきたいです。また、バルテスに蓄積されたアダストリアのノウハウをオープンにしてもらうことで、当社の社員を育成するような存在にもなってもらいたいと考えます」(櫻井氏)

 これに対して逆井は、バルテスが既存のテスト支援からさらに一歩踏み出すような取り組みとして、マネジメントのノウハウなどを「いかにして社員にフィードバックできるかを考えていくこと」を提案。最終的には、組織の成熟として内製化が進むような状態を作ることが、バルテスのミッションの「プラスワンだと考えている」と櫻井氏の要望に応えた。

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VALTES QUALITY DAYでは品質向上に力を入れる各社をゲストに迎え、その取り組みを伺った。各セッションのレポートは特設サイトに掲載している。

(所属・役職は2024年5月時点のものです)

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