近年、あらゆるユーザーにとって「使いやすいWeb」が求められる中で、ウェブアクセシビリティは企業の社会的責任を超えて、事業価値を高める要素として注目されています。
特に2024年4月の法改正以降、公共機関だけでなく民間企業にとっても「アクセシビリティへの対応」はより一層重要な課題となりました。
本記事では、ウェブアクセシビリティの基本から、対応を怠るリスク、具体的な改善項目、そして現場で直面する課題とその解決法まで、総合的に解説します。
ウェブアクセシビリティとは?
ウェブアクセシビリティとは、障害を持つ人や高齢者など、あらゆるユーザーがWebサイトやアプリケーションを利用できること、またはその到達度 を指します。
インターネットやモバイルアプリが普及するのに伴い、さまざまな人たちがデジタルコンテンツを利用する機会が増えています。
そのため、アクセシビリティ対応は、誰もが快適に利用できる環境を提供するために重要な要素となっています。
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1-1 2024年4月にウェブアクセシビリティ対応が義務化
2024年4月、改正障害者差別解消法が施行され、民間企業にも「合理的配慮の提供」が義務化されました。これにより、ウェブサイトやデジタルサービスも「誰にとっても利用可能であること」が強く求められるようになっています。
実際、「2021 Mid Year Web Accessibility Lawsuit Report」によれば、2018年と比べて2021年は訴訟件数が2倍(4,195件)に増加しています。
日本において法律上は「すべてのウェブサイトがJIS規格に準拠しなければならない」と明記されているわけではありませんが、合理的配慮を怠ったと判断される可能性があり、企業としての責任が問われる時代に突入しています。
1-2 ウェブアクセシビリティのガイドライン
ウェブアクセシビリティにおける技術的な基準としては、以下の2つが広く参照されています。
- JIS X 8341-3:2016
日本国内での標準ガイドライン。行政・自治体はAA準拠が目安。 - WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)2.1 / 2.2
W3Cによる国際基準。
これらのガイドラインは、「知覚可能性」「操作可能性」「理解可能性」「堅牢性」の4原則に基づいて設計されており、開発者・デザイナー・コンテンツ制作者のすべてが意識すべき内容となっています。
参考:JIS X 8341-3:2016 解説、Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2
ウェブアクセシビリティ対応を怠るリスク
ウェブアクセシビリティの対応は、単に障害のあるユーザーのためだけでなく、ビジネスとしての信頼・成果・法的リスク対策という観点でも重要です。
対応を怠ることによって生じる主なリスクを3つの軸で解説します。
2-1 ユーザーの取りこぼし・機会損失
アクセシビリティを十分配慮されていないサイトでは、以下のようなユーザーが「情報にアクセスできない」「操作が困難」「利用体験に不満を感じる」と感じ、離脱してしまうことがあります。
- 視覚障害・色覚異常・弱視のあるユーザー
- 高齢者(視力低下・認知負荷)
- スクリーンリーダー利用者
- スマートフォン操作時の片手ユーザー
- 一時的に聴覚や視覚が制限された状況の人(騒がしい場所、明るすぎる/暗すぎる画面環境)
これにより、本来獲得できたはずのユーザーを取りこぼしてしまうリスクがあります。
また、アクセシビリティ対応は、HTMLの構造化や画像のalt属性、コンテンツの可読性などGoogleが推奨する検索評価指標とも密接に関係しています。対応が不十分だと、検索流入が減る・直帰率が上がるといった副次的な影響も見逃せません。
2-2 企業のブランド価値の低下
近年は「誰一人取り残さない」という価値観があらゆる業界で重要視されています。
ウェブサイトやサービスにアクセシビリティの欠如があると、それは“意図せず誰かを排除している”と受け取られる可能性があります。
特に以下のような業種では影響が大きくなります
- 金融、医療、行政、教育など公共性の高いサービス
- BtoCサービス全般(EC、予約サイト、ライフスタイルメディアなど)
- サステナビリティ、DE&I(多様性・包摂)を掲げている企業
対応していないことでマイナスの印象を持たれるリスクがある一方で、アクセシビリティへの取り組みをきちんと見せることで、「この企業は誰にでも開かれたサービスを提供している」と、ポジティブに受け取られることもあります。
インクルーシブな姿勢を示すことで、社会的な信頼を高める効果が期待できるでしょう。
2-3 行政指導・民事訴訟のリスク
前述した2024年4月の改正障害者差別解消法の施行により、民間企業にも「合理的配慮の提供が義務」となりました。
障害のある方が「このサイトは利用しにくい」と申し出た場合、企業は過重な負担でない限り、合理的配慮を提供する法的義務を負います 。
そんな中で、誠意ある対応がなされない場合、行政からの指導や勧告の対象となる可能性もあります。
また、悪質と判断された場合には、20万円以下の過料が課されるケースも想定されています。
実際に米国などでは、ウェブサイトのアクセシビリティの不備に起因する訴訟件数が年々増加しています。日本でも、今後訴訟や行政トラブルが発生する可能性は十分にありえるでしょう。
ウェブ開発における主なアクセシビリティ対応項目
ウェブアクセシビリティ対応といっても、その対象は多岐にわたります。
ここでは特に開発・デザイン現場で実装しやすく、ユーザー体験に直接影響を与える主要な6項目を紹介します。
3-1 適切なカラーデザイン
色の使い方は、ユーザーが情報を正確に受け取るための土台です。
特に色覚障害のある方にとって、誤った色の組み合わせやコントラストの不足は、情報の見落としにつながる大きな障壁になります。
色だけに頼らず、適切なコントラストや形状・テキスト・アイコンなどの補助情報を併用して視認性を確保することが大切です。
- 色覚の違いを前提にしたカラーデザインを行う(色覚シミュレーター例)
- ビビッドな色の多用を避け、補助的なテキストや形状で意味を補完
- 色のコントラスト比をチェックするツールを使い、適切な組み合わせを選定
- 状態(成功・失敗・警告など)を色だけで表現しないようにする
3-2 キーボード操作対応とスクリーンリーダーの考慮
すべてのユーザーがマウスを使えるとは限りません。
アクセシビリティ対応では、キーボードだけでの操作やスクリーンリーダーを使った閲覧にも対応することが求められます。HTMLの構造やタグの意味を理解し、支援技術でも正しく情報が伝わるよう設計しましょう。
- Tabキーで適切な順序でフォーカスが移動するよう設計
- <button>, <a> などタグ本来の意味に沿った使い分けを徹底
- セマンティックなHTMLマークアップで、画面構造を明確に
- alt属性やaria-label属性を用いて、非テキスト情報の意味も伝える
- フォーカスの移動先を明示し、キーボードでもストレスなく操作できる設計を意識
3-3 テキストの読みやすさとフォントサイズの調整
読みやすいテキストは、それだけでアクセシビリティの向上につながります。
フォントサイズ、行間、文字色のバランスが悪いと、認知負荷が高まって読むこと自体が負担となり、特に長文コンテンツではユーザーの離脱につながります。
デザイン性と可読性のバランスをとることが重要です。
- フォントサイズは本文で14px以上(モバイルでは16px程度)を目安に
- 行間(line-height)は文字サイズの1.4〜1.6倍が理想
- 可読性の高いフォント(ゴシック系など)を使用
- テキストの色と背景の組み合わせにも十分なコントラストを持たせる
- Webフォントを活用することで、装飾画像に頼らず視認性の高いテキスト表現が可能
- テキストであればスクリーンリーダーでも読み上げが可能
3-4 コントラスト比と視認性の向上
背景と前景(文字・アイコンなど)の色の差が小さいと、情報が埋もれてしまいます。
見えてはいても“判読できない”状態は、アクセシビリティにおいて致命的です。特に高齢者や弱視のユーザーを想定した設計が求められます。
- WCAGでは、通常のテキストで「コントラスト比4.5:1以上」が推奨
- コントラスト不足は見落とし・誤認識・疲労を招く要因に
- 写真や動画を背景に使う際は、暗めのオーバーレイで文字の読みやすさを担保
- コントラストチェックツール例(Web ToolBox)を活用して数値で確認
3-5 フォームやボタンの操作性改善
入力フォームやボタンは、ユーザーが「行動」する場所。だからこそ、確実に操作できる設計が必要です。
ちょっとしたラベルの不足やエラー表示の不備が、ユーザーのストレスや離脱につながります。
- ラベル(<label>)を明示し、入力欄との関連性を明確に
- エラー時は、色だけでなくアイコンやテキストで原因を説明
- ボタンやリンクのサイズはスマホでも押しやすい44px以上が理想
- タグの意味に沿った使い方(例:<button>、<input type=”submit”>、<a href=”…”>)を守る
- divやspanに無理やりonclickをつける実装は避ける(スクリーンリーダーが認識できない)
3-6 代替テキスト(alt属性)と動画の字幕対応
非テキストコンテンツにも、情報伝達の代替手段を設けることが重要です。
画像や動画が使えない、あるいは見られない環境でも内容が伝わるように設計することで、すべてのユーザーが等しく情報にアクセスできます。
- 画像には意味を持たせたalt属性を設定(装飾用途は空のalt=””)
- アイコンボタンなどにはaria-labelを使って機能を明示
- 動画には字幕を付ける、あるいはテキストで補完する代替情報を提供
- 音声や映像が再生されるタイミングをユーザーがコントロールできるようにする(ミュート・再生ボタンの表示)
- 動画は更新・翻訳が難しいため、補助的にテキストベースの情報も併せて用意するとよい
ウェブアクセシビリティ改善でよく起こる課題
ウェブアクセシビリティ対応は、技術的な知識や設計手法だけでなく、組織の考え方・体制・運用フローとも深く関わっています。
そのため、いざ取り組みを始めても、思うように進まなかったり、形骸化したりするケースが少なくありません。
ここでは、現場で特に起こりやすい4つの課題を解説します。
4-1 対応範囲が曖昧になる
アクセシビリティ改善に取り組む際、「どこまで対応すればよいのか」という範囲が曖昧なまま進行してしまうケースが少なくありません。
方針や優先順位が不明確だと、関係者間で判断が分かれ、対応内容にもばらつきが出ます。
例えば、以下のようなケースです。
- トップページだけ対応し、下層ページは放置
- アプリは対象外、ECカートだけ対応…など対応が場当たり的
- 「JISに準拠」と言いつつ、試験対象や準拠範囲が曖昧
まずは、対象ページや達成レベルを明確にし、段階的に進める計画を立てることが重要です。
4-2 社内ノウハウの不足・属人化
社内にアクセシビリティの知識が十分に共有されておらず、特定の担当者だけが詳しい状態(属人化)になっている企業も多く見られます。
その結果、担当が変わると以下のような問題が発生し、対応が途切れたり、品質が下がってしまったりします。
- デザイナーは色やフォントの基準を知らない
- フロントエンドはaria属性の使い方に自信がない
- QA担当がどこをテストすべきか把握できていない
属人化を防ぐには、ガイドラインやチェックリストの整備、職種別の社内研修が効果的です。
4-3 UI/UXとの両立が難しい
「アクセシビリティ対応はデザイン性を損なう」という誤解が根強くあります。その結果、アクセシビリティが後回しにされることも少なくありません。
例としては以下の通りです。
- 企業のCIカラーがコントラスト基準を満たさない
- 装飾的なUIがスクリーンリーダーで意味不明になる
- フォーカススタイルが目立つため、あえて無効化している
近年は、デザインとアクセシビリティの両立を実現しているUI事例も多く、工夫次第で十分に共存が可能です。
4-4 PDCAが回らない
多くの現場で見られるのが「初回対応だけで終わってしまう」という問題です。
リニューアル時に一度はチェックするものの、その後の運用や新機能追加の際には対応されず、結果的に品質が低下していきます。
アクセシビリティも他の品質と同じく、定期的なチェックと改善(PDCA)の仕組みを開発プロセスに組み込むことが不可欠です。
課題を解消するバルテスの「ウェブアクセシビリティ検証サービス」
バルテスでは、2024年4月の法改正を踏まえ、民間企業におけるアクセシビリティ対応ニーズの高まりに応じて、ウェブアクセシビリティ検証サービスを提供しています。
サービスの流れと特徴
✓ 現状調査と課題の可視化
サイト・アプリ内の実態を丁寧に調査し、課題点を洗い出して整理します。。そのうえで、対応範囲や「JIS X 8341‑3:2016 適合レベル」、「対応度」の基準をクライアントと協議し、明確な目標設定を行います。
✓ 設計・開発に即した改善支援
調査結果と目標基準に基づき、UI/UXの専門チームが誰にとっても見やすく使いやすいデザインの提案・実装支援を行います。バルテスのグループであるタビュラ社との連携による強みがを生かした強力な支援体制を提供します。
✓ JIS準拠の正式な評価・試験
改修後の成果をJISに準拠した評価シートで検証した上で、自動ツールでは検出しきれない部分にも目視や動作確認を組み合わせ、実務品質としての証明性を確保します 。
✓ 適合レベルの宣言と社会的信用の付与
試験結果に基づき、Webサイト上で「アクセシビリティ対応の達成レベルを明示(JIS準拠宣言)」する形で外部に公表することで、社会的責任と信頼性のアピールにも繋がります 。
✓ 一気通貫のワンストップ提供
サイト調査から改善提案、試験・宣言まで、開発や品質向上の窓口を一本化。ソフトウェアテストのオプションとして統合することもでき、既存の開発フローに柔軟に組み込めます。
バルテスは、2024年11月にUI/UXデザインを手掛けるタビュラ株式会社をグループ化し、アクセシビリティやユーザー体験の観点でもさらに手厚い支援体制を整備しました 。
また、同サービス提供に合わせて「ウェブアクセシビリティ改善ガイドブック」も公開中です。法改正やJIS対応の背景、改善プロセス、具体事例もまとめられていますのでぜひご参考にしてみてください。
まとめ
ウェブアクセシビリティとは、すべてのユーザーが公平に情報にアクセスし、サービスを利用できる環境を整えるための設計・運用上の配慮です。
2024年4月の法改正により、民間企業にも「合理的配慮の提供」が義務化され、対応を怠ることでユーザーの離脱やブランド毀損、さらには法的リスクに発展する可能性も高まっています。
実際のウェブ開発においては、カラーデザインの工夫やキーボード操作対応、テキストやフォームの設計、代替テキストの整備など、多面的な対応が求められます。
しかし、対応範囲が曖昧なまま進んでしまったり、社内に知識が属人化していたりと、改善を継続的に進める上では多くの壁が存在するのも確かです。
こうした課題を解消する手段のひとつが、バルテスが提供するウェブアクセシビリティ検証サービスです。
アクセシビリティは単なる「やさしさ」や「配慮」の話ではなく、ユーザー体験・法令遵守・企業価値を支える戦略的品質のひとつです。部分的な対応からでも構いません。持続可能で誰にとっても開かれたウェブの実現に向けて、できるところから一歩を踏み出しましょう。
ウェブアクセシビリティやUI/UXにお悩みの方はお気軽にご相談ください。