ソフトウェアは「動くかどうか」だけでは品質を語れません。
仕様どおりに正しく動作し、異常時でも安全に振る舞えることを確かめるためには、思いつきではなく設計に基づいたテストが必要です。
本記事では、その設計図にあたる「テスト設計」と「テスト設計仕様書」を、なぜ・何を・どうやっての順に整理します。
また、記事の後半では、仕様書を“作って終わり”にしないための運用ポイントをまとめ、現場で回る仕組みに落とし込むヒントを解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
テスト設計とは
ソフトウェア開発において、テストは品質を保証するための重要な工程です。
その中でも「テスト設計」とは、テスト対象に対してどのような観点でテストを行い、どのような入力と出力を確認するかを体系的に整理する活動を指します。
単に「動くかどうか」を確認するのではなく、仕様通りに正しく動作するか、異常な条件でも安全に振る舞えるかといった多角的な観点から検証するための設計を行う作業です。
テスト設計の流れ
テスト設計は「ケースを書き始める前」が7割です。要件を“テスト可能な粒度”にほどき、リスクに応じて深さを決め、観点→条件→ケースへと段階的に落とすことで、抜け漏れを防ぎつつ工数を最適化します。
以下は、現場で踏むステップを分解した実務フローです。

テスト設計は、以下のようなステップで進められます。
- テスト計画
- テスト基本設計
- テスト詳細設計
- テスト実装(テストケース作成)
ステップ1 テスト計画
まず行うのはテスト計画です。
ここでは要件定義書や基本設計書、UIプロトタイプ、API仕様、ユーザーストーリーなどを徹底的に読み込み、テスト対象の機能要件と非機能要件を幅広く理解します。
性能やセキュリティ、可用性やアクセシビリティといった非機能面も含めて振る舞いをそろえ、曖昧さや矛盾は早期に関係者と合意し、受け入れ基準や用語を明文化します。たとえばログイン機能であれば、成功時の遷移先や失敗メッセージ、ロック条件などを先に固め、要件IDやメモを紐づけて後の追跡に備えます。
ステップ2 テスト基本設計
次にテスト基本設計を進めます。
要件をどの角度から確かめるかという観点を整理し、画面やAPIの機能、エラー処理、状態遷移、外部連携、権限差、時間経過や並行操作、性能・セキュリティ・アクセシビリティまで視点を広げます。
そして複雑な箇所は決定表や状態遷移図に起こし、ビジネス影響と発生確率を基準に観点ごとのリスクを重み付けし、優先度を決めます。
この段階でテストマップや機能動作の整理図を作成しておくと、後続の詳細設計やテストケース作成にスムーズにつながります。
ステップ3 テスト詳細設計
続いてテスト詳細設計に移ります。
ここでは抽出した観点を合否が判定できるテスト条件へと具体化し、同値分割や境界値分析を用いて代表入力を決めていきます。
例外やフォーマット違反、項目間の相関も含め、組み合わせが多い画面や機能は決定表を使って網羅を確認し、必要に応じてペアワイズ法などのテスト技法で効率化します。
期待結果はユーザーに見える結果と内部で満たすべき事実(データベースの更新やログ出力など)の二層に分けて記述することで、判断のぶれを防ぐことができます。
ステップ4 テスト実装(テストケース作成)
最後に、テスト実装=テストケースの作成に進みます。
洗い出した条件を、前提や手順、テストデータ、期待結果が一貫した実行単位に落とし込みます。
テストケースは一つの意図に対して一つの検証に保ち、副作用や後片付けまで含めて自己完結させることで、並列実行や失敗時の切り分けが容易になります。
実行時には画面表示だけでなく、APIレスポンスやデータベース、ログも活用し、将来の自動化を見据えて識別子の安定性や待機条件、モックの切替方法もここで決めておくと保守が楽になるでしょう。
この段階でテスト設計は完成し、実行可能なテストケースとして形を整えたことになります。
このように、テスト設計はテストケースを書き始めるまでの段階に重きを置き、計画から基本設計、詳細設計を経て、最後にテストケース作成に至るという流れをたどります。このプロセスを踏むことで網羅性を確保しながらテスト件数を最適化し、早期に不具合を発見できるようになります。
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テスト設計仕様書とは
テスト設計仕様書とは、ソフトウェア開発時におけるテスト工程で「何を」「どのように」テストするのかを記述した文書です。
テスト設計仕様書があることで、テストチームにおける仕様理解が深まり、テストを実施するうえでの共通基盤になります。
テスト設計仕様書の主な役割は以下の通りです。
- プロジェクト関係者における共通理解の基盤
- テスト工程の効率化
- 開発、運用資産としての活用
- 基本設計仕様書とテストケースのトレーサビリティ
3-1 プロジェクト関係者における共通理解の基盤
開発、テスト、品質保証、PMなど多様な関係者が同じ方向を向くために、テスト設計仕様書は“共通の拠り所”になります。プロジェクトの目的や要件、テストの狙いを一つの文書で共有できるため、解釈のズレを早期に防ぐことができます。
これがないまま進めると、各自の観点がばらばらに持ち込まれ、結果的にテスト品質が下がる恐れがあるため、合意形成と意思決定を支える基礎資料として重要です。
3-2 テスト工程の効率化
テスト設計仕様書があると、何をどこまで確認するのかが明確になり、テストケースの重複や抜け漏れを抑えられます。
実施時のガイドラインとして、観点や使用データ、判断基準が具体化されるため、設計から実行までがスムーズに流れます。
また、作成プロセス自体が担当者の仕様理解を深め、観点整理を促すため、より網羅的で効率的なテストに直結します。
3-3 開発、運用資産としての活用
テスト設計仕様書は、保守や機能追加時の確かな参照元になります。
開発と運用が分かれている場合や、メンバー交代が起きる場面でも、オンボーディング資料として有効です。さらに他プロジェクトへの流用・比較がしやすく、組織全体の開発品質と生産性の底上げに貢献します。
3-4 基本設計仕様書とテストケースのトレーサビリティ
基本設計仕様書などの開発側のドキュメントを参照し、直接テストケースを作ると、あとから見たときにどのような意図・目的があったのかわからなくなります。
テスト設計仕様書は、基本設計仕様書とテストケースの間に位置し、トレーサビリティを確保する役割があります。それによって、各機能に対してどのような意図・目的をもってテストをしたのか、関連するテストケースはどれかが明確になります。
また、仕様変更などがあった場合、変更が必要なテストケースをヌケモレなく修正することが可能となります。
テスト設計仕様書を作成する際のポイント
テスト設計仕様書は「何を、どこまで、どうやって、合否をどう判断するか」を一枚の地図にする文書です。迷いを減らし、重複や漏れを抑え、関係者の認識をそろえることが目的となります。
テスト設計仕様書を作成する際は以下のポイントをおさえておきましょう。
- 目的とスコープは一文で言い切る
曖昧語は避け「何を・どこまで検証するか」を明確にします。 - 終了基準は定量的に定義するようにする
例:重要要件カバレッジ100%、S1欠陥0、P95応答◯ms以下など - 観点→条件→ケースの導出を見える化
要件IDと紐づけ、導出の筋道を文書内で追えるようにします。 - 期待結果は二層で書く
UIの見え方と、内部事実(DB更新・トークン・ログ)を分けて記述します。 - リスクベースで優先度を決める
影響×発生可能性で高リスクから着手、根拠を一行メモで残します。 - ケースは“一つの意図=一つの検証”
前提・手順・データ・期待結果・後片付けまで自己完結させます。 - 証跡とオラクルを多層化
画面だけに依存せず、API/DB/ログを判断根拠に含めます。 - トレーサビリティと命名規則を統一
CaseIDや要件IDの規則を固定し、検索・集計・回帰が楽になります。 - 変更管理を明確に
版番号・変更履歴・承認者を所定欄で管理し、改版理由を残します。 - 自動化を見据えて書く
安定セレクタ、待機条件、データ初期化手順をケース内に明記します。 - 組み合わせ爆発は設計で抑える
決定表で完全化し、必要に応じてペアワイズで圧縮します。
テスト設計仕様書を運用する仕組みづくり
テスト設計仕様書を形骸化させないためにも、チームで運用する仕組みづくりが重要です。
運用する際のポイントをご紹介します。
5-1 運用ルールの策定
テスト設計仕様書は一度作ったら終わりではありません。
更新の頻度、レビューの担当、合意の取り方をあらかじめ決め、定期見直しで改善します。実プロジェクトで得た気づきや反省点を必ず戻し入れ、運用ルール自体も必要に応じて見直します。
5-2 バージョン管理
変更履歴はGit等のバージョン管理ツールを用いて、「誰が・いつ・何を変えたか」を追える状態にします。ファイルの複製配布は避け、保管場所を一本化して全員が最新版を即時に把握できるようにします
5-3 新人教育・オンボーディングへの活用
テスト設計仕様書は、新人教育やオンボーディングの際に非常に有用です。
新メンバーが最初に読むべき資料として位置づけ、目的・要件・テスト方針が短時間で理解できるようにします。
テストチームだけでなく開発側にも共有し、共通認識の形成を早めます。可能なら「読み方ガイド」や最小ケースの作例を添えると効果的です。
5-4 プロジェクト間のナレッジ共有
異なるプロジェクトでは、異なる視点でのテスト設計が求められます。そのため、他案件の仕様書を参照できる場(リポジトリやナレッジベース)を用意し、タグや検索で関連例にたどり着けるようにしましょう。
別プロジェクトの観点や工夫を取り入れることで、見落としを減らし設計の質を底上げできます。
まとめ
テスト設計は、要件をテスト可能な粒度へほどき、観点・条件・ケースへと論理的に接続する作業です。
その成果を一枚の地図として編集したものがテスト設計仕様書であり、関係者の共通理解を作り、重複や抜け漏れを抑え、将来の保守やオンボーディングにも効く“運用資産”になります。
作成時は、目的とスコープを言い切り、終了基準は定量的に定義するようにし、期待結果をUIと内部の二層で明確にします。
運用では、定期レビューとバージョン管理で最新版を一本化し、学びを必ず文書へ還流させます。他プロジェクトの知見を取り込み、継続的に改版を重ねることで、仕様書は生きたドキュメントとして価値を増していきます。今日からは、最小セットのケースでもよいので“意図が明確な設計”で始め、テンプレートと運用ルールを土台に、一貫した品質保証のサイクルを回していきましょう。
バルテスでは、テスト計画・テスト設計支援を提供しています。
テストの手戻りや属人化などテスト設計段階での課題を抱えている方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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